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てんかんの理解と対策~症状、原因、治療方法の詳細ガイド~

てんかんの理解と対策~症状、原因、治療方法の詳細ガイド~

本ガイドでは、てんかんについて包括的に解説しています。まず、てんかんの基本的な定義と特徴について説明し、次に部分発作と全般発作の症状を詳細に紹介します。てんかんの原因としては、脳血管障害、脳腫瘍、脳外傷、アルツハイマー病、感染症、自己免疫疾患などが挙げられ、それぞれの原因について詳しく説明します。また、てんかんが起きた際の適切な対処法と日常生活での注意点を提供し、薬物治療、外科手術、迷走神経刺激療法などの治療方法についても詳述しています。さらに、てんかんのある方が利用できる精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療制度、障害者年金制度についても解説し、これらの制度を活用することで得られる支援について紹介しています。本ガイドを通じて、てんかんに対する理解を深め、適切な対応と支援を受けるための情報を提供します。

1. てんかんとは?

てんかんは、脳の神経細胞(ニューロン)の異常な電気的興奮によって引き起こされる慢性疾患です。この異常な電気的活動が脳のどの部分で起こるかにより、症状や発作の形態は多岐にわたります。てんかんは、繰り返し起こるてんかん発作を特徴とし、その発作は一時的なものですが、突然に発生するため日常生活に大きな影響を及ぼします。

てんかん発作は、大脳の神経細胞が通常は規則正しいリズムで活動しているところに、突然異常な電気的興奮が発生することで起こります。この興奮が脳の特定の部位で起こる場合は部分発作、広範囲にわたる場合は全般発作と呼ばれます。部分発作は、脳の一部で起こるもので、意識が保たれることもあれば、失われることもあります。一方、全般発作は脳全体に広がるため、意識が完全に失われることが一般的です。

てんかんは、年齢や性別に関係なく発症する可能性があり、特に小児と高齢者での発症が多いとされています。乳幼児から思春期までの間に発症する小児てんかんは、成長とともに症状が改善することもあれば、頻繁に発作を繰り返すこともあります。一方、高齢者の場合、脳血管障害やアルツハイマー病などが原因となることが多く、生活の質に大きな影響を与えることがあります。

日本国内では、約100万人がてんかんを患っているとされ、決して珍しい病気ではありません。発症の原因は多岐にわたり、脳の先天性異常や周産期のトラブル、外傷、感染症、脳腫瘍などが含まれます。しかし、原因が特定できない特発性てんかんも多く存在します。

てんかんの診断は、症状の観察や脳波検査、画像診断(MRIやCTスキャン)などを通じて行われます。治療には、抗てんかん薬による薬物療法が一般的であり、患者の症状や発作のタイプに応じて適切な薬が選ばれます。薬物療法で効果が得られない場合、外科手術や迷走神経刺激療法といった他の治療法が検討されることもあります。
てんかんは日常生活に大きな影響を与える疾患であるため、患者本人だけでなく、家族や周囲の人々の理解と協力が不可欠です。発作が起きた際の対処法や生活上の注意点を知っておくことで、発作時のリスクを減少させ、安全に過ごすことができます。また、てんかんを持つ人々が適切な医療や支援を受けられるよう、社会全体の理解と支援が重要です。

・てんかん発作の基本的な特徴
てんかん発作は、異常な電気的興奮が大脳皮質で発生することによって引き起こされます。これにより、意識喪失、けいれん、行動の異常など、さまざまな症状が現れます。発作は通常数秒から数分間続き、その後通常の状態に戻ります。しかし、一部の重度な発作は長時間続くことがあり、これは緊急医療が必要です。

・小児てんかん
小児てんかんは、新生児から思春期までに発症するてんかんを指します。小児てんかんには多くの種類があり、症状も多様です。例えば、母親の胎内や出生時に脳が損傷を受けたことが原因で発症する場合があります。生まれつきの脳の奇形や代謝異常、感染症や頭部外傷が原因で発症することもあります。小児てんかんは、成長とともに自然に治ることもあれば、頻繁に発作を繰り返すこともあります。

・高齢者のてんかん
高齢者のてんかんは、主に脳血管障害やアルツハイマー病、脳腫瘍、頭部外傷などが原因で発症します。これらの原因によって脳が損傷を受けると、てんかん発作が引き起こされます。高齢者のてんかんは、生活の質に大きな影響を及ぼし、適切な治療とケアが求められます。

・てんかんの社会的影響
てんかんは、患者本人だけでなく、その家族や周囲の人々にも大きな影響を与えます。発作がいつ起こるかわからないという不安から、日常生活に制約が生じることがあります。例えば、運転、入浴、一人での外出などが制限されることが多いです。また、てんかんに対する誤解や偏見も依然として存在し、患者が社会的に孤立する原因となることもあります。

・てんかんの支援と治療
てんかん患者が安全で充実した生活を送るためには、適切な治療と支援が不可欠です。抗てんかん薬の適切な使用や、発作を誘発する要因の管理が重要です。また、てんかんに対する理解を深めるための教育や啓発活動も重要です。医療機関や福祉サービスを活用し、必要なサポートを受けることで、患者の生活の質を向上させることができます。

てんかんは、その発作の種類や原因が多岐にわたるため、個々の患者に適した治療法を見つけることが重要です。医師と連携し、適切な治療計画を立てることで、てんかんの管理が可能になります。また、家族や周囲の人々の理解と支援が、患者の社会的な適応を助ける重要な要素となります。てんかんについての理解を深め、正しい知識を持つことで、患者がより安心して生活できる環境を作り出すことができるでしょう。

2. てんかんの症状

てんかんの症状は、異常な電気的興奮が脳のどの部分で発生するかによって大きく異なります。発作は部分発作と全般発作に大別され、それぞれに特徴的な症状があります。ここでは、部分発作と全般発作について詳しく説明します。

2.1 部分発作の症状

部分発作は、脳の一部に限定して異常な電気的興奮が起こる発作です。このタイプの発作はさらに「単純部分発作」と「複雑部分発作」に分けられます。意識の有無や症状の違いによって分類されます。

単純部分発作

単純部分発作では、意識が保たれたまま発作が起こります。発作中、患者は自身の症状を自覚しているため、どのような発作が起こったかを詳細に説明できます。主な症状は以下の通りです。

  • 運動機能の障害
    手足や顔が突っ張る、ねじれる、ガクガクとけいれんする、しびれるなどの運動機能に異常が現れます。
  • 視覚や聴覚の異常
    輝く点や光が見える、ピカピカする、人の声が聞こえる、音が響く、耳が聞こえにくいなどの視覚や聴覚に関する異常が生じます。
  • 自律神経の異常
    頭痛や吐き気をもよおす、自律神経の機能に異常が現れます。

複雑部分発作

複雑部分発作では、意識が変容し、徐々に遠のくような意識障害が見られます。発作の持続時間は通常1〜3分程度で、発作中の行動や症状は以下の通りです。

  • 側頭葉からの発作
    衣服をまさぐる、口をもぐもぐする、ウロウロ歩くなどの症状が現れます。
  • 前頭葉からの発作
    身体をバタバタさせる、自転車をこぐような動きをするなどの症状が見られます。
  • 二次性全般化発作
    部分発作から全般発作に移行するタイプで、異常な電気的興奮が脳全体に広がります。脳波の測定によって診断が確定します。

2.2 全般発作の症状

全般発作は、脳全体で異常な電気的興奮が発生する発作です。このタイプの発作は意識を完全に失うことが一般的で、主に以下の種類に分類されます。

強直間代発作

強直間代発作は最もよく知られているてんかん発作です。突然意識を失い、全身の筋肉が硬直し、その後ガクガクとけいれんします。強直間代発作の特徴は以下の通りです。

  • 突然の意識消失
    突然意識を失います。
  • 筋肉の硬直とけいれん
    手足が硬直し、その後ガクガクとけいれんします。
  • 一時的な呼吸停止
    一時的に呼吸が止まり、顔色が悪くなることがありますが、けいれんが収まると回復します。
  • 発作後のもうろう状態
    発作後にはもうろう状態が見られたり、そのまま眠ってしまうことが多いです。

欠神発作

欠神発作は、数秒から数十秒間にわたり意識がなくなる発作です。以下のような特徴があります。

  • 意識の短時間の消失
    突然意識がなくなり、ぼーっとして急に話が途切れたり、動作が止まります。
  • 反応の欠如
    呼びかけにも反応しなくなります。短時間のため、周囲の人が発作に気づかないことも多いです。
  • 子どもに多い
    主に子どもに多く見られ、大人になってから発症することはまれです。

脱力発作

脱力発作は、突然全身の筋肉の緊張が低下し、力が抜けて崩れるように倒れる発作です。特徴は以下の通りです。

  • 突然の筋肉緊張の低下
    全身の筋肉が突然弛緩し、倒れることが多いです。
  • 短時間の発作
    発作の持続時間は1〜2秒と短く、発作と気づかれにくいこともあります。

ミオクロニー発作

ミオクロニー発作は、全身あるいは手足、顔などの筋肉が一瞬ピクッとなる発作です。以下の特徴があります。

  • 短時間の筋肉収縮
    一瞬だけ筋肉が収縮し、自覚することが少ないですが、連続して起こることもあります。
  • 誘発因子
    光によって誘発されることがあり、寝起きや寝入りに起こりやすいです。

これらの発作や症状の分類はあくまで代表的なもので、必ずしもすべての発作がこれらに当てはまるわけではありません。てんかんの診断や治療は、個々の患者の症状に応じて行われるべきであり、専門医の診断が重要です。

3. てんかんの原因

てんかんの原因は非常に多岐にわたります。脳に何らかの異常が発生することで、異常な電気的興奮が引き起こされるのが一般的です。ここでは、てんかんの代表的な原因について詳しく説明します。

3.1 脳血管障害

脳血管障害は、てんかんの発症原因として最も一般的なものの一つです。脳卒中や脳梗塞、脳出血などがこれに該当します。特に高齢者に多く見られ、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳細胞がダメージを受け、その結果としててんかん発作が引き起こされます。

3.2 脳腫瘍

脳腫瘍もてんかんの重要な原因の一つです。良性・悪性を問わず、脳内に腫瘍が形成されることで脳の電気的活動が乱れ、てんかん発作を誘発します。腫瘍の位置や大きさによって、発作の頻度や症状が異なることがあります。

3.3 脳外傷

脳外傷は、交通事故やスポーツ中の事故、転倒などによる頭部の強い打撃が原因で発症します。頭部への外的な力が脳に損傷を与え、その結果としててんかんが発生することがあります。外傷後、数ヶ月から数年経ってから発症する場合もあります。

3.4 アルツハイマー病

アルツハイマー病などの神経変性疾患もてんかんの原因となり得ます。アルツハイマー病は、脳細胞が徐々に破壊されていく病気で、脳の電気的活動に影響を与えることがあります。このような病気が進行することで、てんかん発作が引き起こされることがあります。

3.5 感染症

脳炎や髄膜炎といった脳やその周辺の組織に感染を引き起こす疾患も、てんかんの原因となります。これらの感染症が脳に炎症を起こし、脳の正常な電気的活動を妨げることで、てんかん発作が発生することがあります。

3.6 自己免疫疾患

自己免疫疾患では、体の免疫システムが誤って自身の脳組織を攻撃し、炎症や損傷を引き起こします。このような自己免疫反応が脳に影響を及ぼし、てんかん発作を誘発することがあります。

3.7 特発性てんかん

特発性てんかんとは、特定の原因が見つからない場合に用いられる分類です。遺伝的要因が関与していると考えられ、家族にてんかんの既往歴がある場合に発症するリスクが高まります。特発性てんかんは一般的に遺伝性が強いとされ、特に若年層に多く見られます。

3.8 症候性てんかん

症候性てんかんは、脳に明確な異常が認められる場合に用いられる分類です。脳の奇形、周産期のトラブル(出生前や出産時の脳へのダメージ)、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞などが原因として挙げられます。これらの脳の損傷や異常が原因となり、てんかん発作が引き起こされます。

3.9 その他の原因

その他にも、代謝異常や栄養不足、薬物の使用や依存、アルコール依存などがてんかんの原因となることがあります。また、発作が特定の刺激(光や音など)によって誘発される反射性てんかんも存在します。

てんかんの原因は多岐にわたり、特定の原因が分からない場合も少なくありません。脳の構造的な異常や外傷、遺伝的要因、感染症などが複雑に絡み合って発症することが多いです。てんかんの正確な診断と適切な治療のためには、専門医の診察が不可欠です。早期に原因を特定し、適切な治療を受けることで、てんかん発作のコントロールが可能となります。

4. てんかんが起きた際の対処法

てんかん発作が起きた際には、迅速かつ冷静に対処することが重要です。適切な対処法を知っておくことで、患者の安全を確保し、発作後の回復をスムーズにすることができます。ここでは、てんかん発作が起きた際の具体的な対処法と、日常生活で注意すべき点について詳しく説明します。

4.1 発作が起きたときの対処法

てんかん発作が起きたときには、以下の対処法を覚えておくと良いでしょう。

  • 安全な場所に移動
    患者が危険な場所(例えば、道路や階段の近く)で倒れた場合は、安全な場所に移動させます。
  • 周囲の危険物を除去
    ストーブ、やかん、鋭利な物など、患者に危害を及ぼす可能性のある物を周囲から取り除きます。
  • 呼吸をしやすくする
    患者の服の襟やベルトをゆるめて、呼吸がしやすい状態にします。また、ボタンを外すことも有効です。
  • 横向きに寝かせる
    吐物による窒息を防ぐために、患者を横向きに寝かせます。この体位は、気道を確保しやすくするためです。
  • 発作の様子を観察・記録
    発作が始まった時刻を確認し、発作の持続時間や様子を観察・記録します。これは後の医療相談や診断に役立ちます。
  • 発作後の保護
    発作後にはもうろう状態になることが多いため、患者が物にぶつかったり、危険な物に触れたりしないよう、軽く寄り添って保護します。

4.2 発作時の注意点

てんかん発作時には、以下のような行動は避けるべきです。

  • 体を押さえたり揺さぶったりしない
    発作中に患者の体を押さえたり揺さぶったりすると、怪我をする可能性があります。
  • 口の中に物を入れない
    けいれん中に舌を噛まないようにと、口の中に指やタオル、スプーンなどを無理に突っ込むことは避けましょう。これにより窒息したり、口の中を傷つけたりするリスクがあります。また、指を入れると噛まれて怪我をすることもあります。

4.3 発作後の対応

発作後の対応も非常に重要です。通常、発作は1分から数分で収まり、その後10〜20分以内に意識が回復することが多いです。しかし、長時間発作が続く場合や、意識が戻らないまま再び発作が起きる場合は、緊急医療が必要です。以下の点に注意して対処しましょう。

  • 回復ポジション
    患者が意識を取り戻した後も、しばらくは横向きに寝かせておきます。これは、再び発作が起きた場合に備えるためです。
  • 口元を清潔に
    発作中に吐物が出た場合は、口元を清潔にして呼吸を確保します。
  • 静かな環境を提供
    発作後は患者が落ち着けるように、静かな環境を提供します。騒音や光の刺激を避けることが重要です。

4.4 日常生活での注意点

てんかん患者が日常生活を安全に過ごすためには、以下の点に注意することが重要です。

  • 睡眠の確保
    睡眠不足はてんかん発作を誘発することがあります。成人では6〜8時間、子どもでは8〜10時間の睡眠を確保するよう心がけましょう。
  • ストレス管理
    ストレスも発作の誘発因子となるため、リラックスできる環境を作り、ストレス管理に努めることが重要です。
  • 入浴時の注意
    入浴時に発作が起きると溺水のリスクが高いため、小さな子どもや高齢者は家族と一緒に入浴するなどの対策を取ります。風呂場に鍵をかけないようにし、滑り止めマットを敷くことも効果的です。
  • 運動の工夫
    適度な運動は健康維持に役立ちますが、発作が起きるリスクが高い活動(登山、スキー、水泳など)は避けるべきです。安全な範囲での運動を主治医と相談して取り入れましょう。
  • 関係者との連携
    家庭、学校、職場など、患者の周囲の関係者と連携し、発作が起きた際の対応や注意点を共有しておくことが重要です。学校や職場にはてんかんの診断と症状、発作時の対処法を事前に伝えておきましょう。

てんかん発作が起きた際には、迅速かつ冷静に対処することが患者の安全を守るために非常に重要です。日常生活においても、発作を誘発する要因を管理し、安全な環境を整えることが求められます。患者自身や家族、周囲の人々がてんかんについての正しい知識を持ち、適切に対応することで、患者の生活の質を向上させることができます。

5. てんかんの治療方法

てんかんの治療には、主に薬物療法、外科手術、迷走神経刺激療法の3つの方法があります。それぞれの治療法は患者の症状や発作のタイプに応じて選ばれ、個別に適したアプローチが取られます。ここでは、各治療方法について詳しく説明します。

5.1 薬物治療

薬物治療は、てんかん治療の基本となる方法です。抗てんかん薬を使用して、脳の神経細胞の異常な電気的興奮を抑えたり、興奮が他の神経細胞に伝わらないようにすることで、発作の症状をコントロールします。薬物治療の詳細は以下の通りです。

  • 抗てんかん薬の種類
    抗てんかん薬には、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、レベチラセタムなど、複数の種類があります。これらの薬は発作のタイプや患者の年齢、健康状態に応じて選ばれます。
  • 服薬の継続
    てんかん発作を抑えるためには、規則的な服薬が重要です。薬を飲み忘れることや、自己判断で服薬を中断することは発作の再発を招く恐れがあります。
  • 副作用の管理
    抗てんかん薬には副作用が伴うことがあります。めまい、眠気、体重増加、肝機能障害などが報告されています。副作用が見られた場合は、主治医に相談して薬の調整や変更を検討することが重要です。
  • 治療の評価
    定期的に診察を受け、治療の効果を評価します。脳波検査や血液検査を通じて、発作の抑制状態や薬の副作用を確認し、必要に応じて治療方針を調整します。

5.2 外科手術

薬物療法で発作が抑制されない難治性てんかんに対しては、外科手術が検討される場合があります。外科手術は、発作の原因となる脳の異常部位を直接取り除く方法です。以下に、外科手術の詳細を示します。

  • 手術の適応
    外科手術はすべてのてんかん患者に適用できるわけではありません。発作の始まる部位が明確で、その部分を切除しても重要な機能に障害が残らない場合に限られます。特に内側側頭葉てんかんや、片側半球の広範な病変による部分てんかんなどが手術の対象となります。
  • 手術の種類
    代表的な手術には、焦点切除術、側頭葉切除術、脳梁離断術などがあります。これらの手術は、発作の原因となる脳の異常部位を切除することで発作を抑制します。
  • 手術のリスクと効果
    手術には一定のリスクが伴います。感染症や出血、術後の機能障害などが考えられますが、多くの場合、発作の回数や重症度を大幅に減少させる効果があります。手術の適応やリスクについては、専門医と十分に相談することが重要です。

5.3 迷走神経刺激療法

迷走神経刺激療法は、薬物療法や外科手術で効果が得られない難治性てんかんに対する補助治療の一つです。この治療法は、迷走神経に電気刺激を与えることで発作を抑える方法です。以下に詳細を示します。

  • 治療の仕組み
    埋め込み型の電気刺激装置を用いて、迷走神経に周期的な電気刺激を与えます。これにより、脳の神経活動が調整され、発作の回数や重症度が軽減されます。
  • 手術の手順
    装置は胸部に埋め込まれ、リード線を通じて迷走神経に接続されます。手術は一般的に数時間で終了し、患者は数日の入院で回復します。
  • 治療の効果
    迷走神経刺激療法は発作を完全に抑制することを目的としていませんが、発作の頻度や重症度を減少させる効果があります。また、情動が安定するなどの心理的効果も期待できます。
  • 副作用
    迷走神経刺激療法には副作用もあります。声の変化、喉の違和感、咳、息切れなどが報告されています。副作用の管理も重要であり、定期的なフォローアップが必要です。

てんかんの治療には、個々の患者の症状や発作のタイプに応じたアプローチが必要です。薬物療法を基本としながら、外科手術や迷走神経刺激療法を組み合わせることで、発作のコントロールを目指します。患者と医療チームが協力して、最適な治療法を見つけることが重要です。定期的な診察と適切な治療を続けることで、てんかんの管理が可能となり、患者の生活の質を向上させることができます。

6. てんかんのある方が利用できる支援や制度

てんかんのある方が日常生活や社会生活をより良く送るためには、さまざまな支援や制度を利用することが重要です。ここでは、精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療制度、障害者年金制度について詳しく説明します。

6.1 精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、精神障害のために日常生活や社会生活に長期にわたり制約がある方を対象とした制度です。てんかんは精神疾患ではありませんが、精神保健福祉法の対象となる疾患として位置付けられています。この手帳を取得することで、さまざまな福祉・就労支援サービスを受けることができます。以下に具体的な内容を示します。

  • 手帳の取得条件
    てんかん患者が精神障害者保健福祉手帳を取得するには、診断書の提出が必要です。診断書は、てんかんの診断を受けた医師が発行します。
  • 取得のメリット
    手帳を持つことで、医療費の助成、公共交通機関の運賃割引、税制上の優遇措置、就労支援サービスの利用など、さまざまな支援が受けられます。また、自治体によっては手帳を提示することで、公共施設の利用料金が割引される場合もあります。
  • 申請手続き
    手帳の申請は、市区町村の役所の福祉担当課や保健担当課で行います。申請書類には、診断書や本人確認書類などが必要です。手帳の有効期限は2年または3年で、更新手続きも必要です。

6.2 自立支援医療制度

自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。てんかん患者にとって、この制度を利用することで治療費の負担を軽減できます。以下に詳細を示します。

  • 制度の対象
    てんかんに関連する診断、検査、薬物療法などが対象となります。指定された医療機関の外来受診に限定されるため、事前に対象となる医療機関を確認することが重要です。
  • 自己負担の軽減
    自立支援医療制度を利用することで、医療費の自己負担額が3割から1割に軽減されます。これにより、継続的な治療が必要なてんかん患者の経済的負担が大幅に軽減されます。
  • 申請手続き
    申請は、市区町村の担当窓口で行います。申請書類には、診断書、保険証、所得を証明する書類などが必要です。申請が認められると、自立支援医療受給者証が発行されます。

6.3 障害者年金制度

障害者年金制度は、てんかん発作の頻度やそれによる日常生活、社会生活、経済生活上の困難さに応じて年金が支給される制度です。てんかん患者がこの制度を利用することで、生活の安定を図ることができます。以下に詳細を示します。

  • 年金の種類
    障害者年金には、国民年金から支給される障害基礎年金と、厚生年金から支給される障害厚生年金の2種類があります。加入している年金制度により、受給できる年金の種類が決まります。
  • 受給条件
    障害者年金を受給するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
    1. 初診日に公的年金(国民、厚生、共済)に加入していること。
    2. 初診日の前々月までに、加入すべき期間の3分の2以上が保険料納付されていること、または免除期間であること。
    3. 障害認定日またはその後の65歳前までに、障害の状態が「障害認定基準」に該当していること。
  • 申請手続き
    申請は、居住地の年金事務所または市区町村の担当窓口で行います。申請書類には、診断書、初診日を証明する書類、年金手帳などが必要です。年金の受給には審査があり、認定されると年金が支給されます。

てんかんのある方が利用できる支援や制度は、生活の質を向上させ、社会での自立を助けるために非常に重要です。精神障害者保健福祉手帳を取得することで、さまざまな福祉サービスを利用でき、自立支援医療制度を活用することで医療費の負担を軽減することができます。また、障害者年金制度は、てんかんによる生活の困難さを軽減し、経済的な支援を提供します。これらの制度を適切に利用し、てんかんと共により良い生活を送るための支援を受けましょう。

まとめ

てんかんのある方が利用できる支援や制度は、生活の質を向上させるために非常に重要です。精神障害者保健福祉手帳を取得することで、医療費の助成や公共交通機関の運賃割引、税制上の優遇措置、就労支援サービスなど、さまざまな福祉サービスを利用することができます。また、自立支援医療制度を活用することで、てんかんに関連する医療費の自己負担額を大幅に軽減することができます。さらに、障害者年金制度を利用することで、てんかん発作による日常生活や社会生活の困難さを軽減し、経済的な支援を受けることができます。

これらの制度は、てんかん患者が安全で安心な生活を送るための重要なサポートです。適切な医療と支援を受けることで、発作の管理が可能となり、患者の生活の質が向上します。てんかんについての正しい知識を持ち、支援制度を活用することが、患者自身やその家族にとって大切です。専門医や福祉担当者と連携しながら、適切な支援を受けて、より良い生活を築いていきましょう。