本記事では、ICD-11(国際疾病分類第11版)の日本における導入について詳しく解説いたします。ICD-11は、WHOが約30年ぶりに改訂した病気や健康状態を分類するための国際標準であり、最新の医学的知見を反映しています。この記事では、ICD-11の概要、主な改訂点、医療機関および行政機関での使用方法、日本語版の翻訳と現状について詳述しています。また、ICD-11とDSMの違いについても説明し、ICD-11が日本の医療システムにどのような影響を与えるかを考察します。翻訳作業の進捗や導入準備の詳細に触れつつ、ICD-11の活用がもたらす公衆衛生の向上についても展望します。この記事を通じて、ICD-11の重要性とその導入の意義について理解を深めていただければ幸いです。
1. ICD-11とは?
ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems、国際疾病分類)は、世界保健機関(WHO)が作成した、世界中の病気や健康問題を分類するための標準システムです。ICDは、病気や健康状態をアルファベットと数字の組み合わせによってコード化し、統一された診断基準を提供します。この分類システムは、国際的に統一された医療情報の収集、分析、比較を容易にすることを目的としています。
ICDは、主に以下の目的で使用されます。
- 診断の標準化
異なる国や地域の医療機関で統一された診断基準を提供し、診断の一貫性を保ちます。 - 統計の収集と分析
各国で収集された疾病や死亡のデータを体系的に記録し、国際的な比較や研究を可能にします。 - 医療政策の立案
健康問題の傾向を把握し、適切な医療政策の立案や公衆衛生の向上に役立ちます。
ICD-11は、このICDシステムの第11版で、2018年6月にWHOによって公表されました。約30年ぶりの大改訂であり、ICD-10から多くの改訂が加えられています。ICD-11では、最新の医学的知見が反映されており、病気の分類やコード体系がさらに詳細かつ包括的になっています。
ICD-11の主な特徴には以下のものがあります。
- 最新の医学的知見の反映
ICD-11には、過去30年間における医学や科学の進歩が反映されています。これにより、新たな病気や障害の分類が追加され、既存の分類も最新の情報に基づいて見直されています。 - 新しい病気や障害の追加
ICD-11では、例えばゲーム障害(ゲーム症)が新たに追加されています。これは、ゲームをやめたいと思ってもやめられない状態を指し、嗜癖行動による障害の一つとして分類されています。 - 伝統医学の導入
ICD-11には、伝統医学に基づく疾患分類も含まれています。これにより、東洋医学などの伝統医学が国際的に認識される一方、標準的な医学的分類とも統合されています。 - 電子環境での活用
ICD-11は、電子環境での使用を前提として設計されています。これにより、電子カルテシステムや他の医療情報システムと容易に統合でき、データの入力や検索が効率的に行えるようになっています。 - 新しい分類の追加
ICD-11には、従来の分類に加えて新しい章やセクションが追加されています。例えば、免疫系の疾患、睡眠・覚醒障害、性保健健康関連の病態、伝統医学の病態などが含まれています。 - 多様な病態の表現
ICD-11では、より多様な病態を表現できるようにコード体系が整備されています。これにより、臨床現場や研究において、より正確で詳細な病態の把握が可能となっています。
ICD-11は、病気の診断や治療、医療研究、公衆衛生政策など、幅広い分野で重要な役割を果たします。日本でも、ICD-10からICD-11への移行が進められており、医療現場や行政機関での使用が期待されています。
ICD-11の導入により、国際的な医療データの比較や分析がさらに進み、世界中の公衆衛生の向上に貢献することが期待されます。
2. ICD-11の導入時期と背景
ICD-11は、世界保健機関(WHO)が約30年ぶりに改訂した国際疾病分類の最新バージョンです。2018年6月に公表され、2019年5月にWHOの総会で正式に承認されました。この新しい分類システムは、最新の医学的知見を反映し、多くの改訂や追加が行われています。日本におけるICD-11の導入時期と背景について、以下に詳しく説明します。
2.1 導入の背景
ICD-11の開発は、1989年に発表されたICD-10の限界を超えるために始まりました。ICD-10は、30年以上にわたり、世界中の医療機関で使用されてきましたが、医学や科学の進歩により、新たな病気や治療法が登場し、その対応が求められていました。また、電子カルテやデジタルデータの普及に対応するため、ICD-11は電子環境での使用を前提に設計されました。
2.2 日本における導入プロセス
日本では、ICD-11の導入に向けて厚生労働省や総務省などが中心となって翻訳や適用の準備を進めています。具体的な導入プロセスは以下の通りです。
- ICD-11の公表と承認
- 2018年6月:WHOがICD-11を公表。
- 2019年5月:WHOの総会でICD-11が承認。
- 国内適用の準備
- 2019年~2021年頃:日本では厚生労働省や総務省などが、ICD-11の国内適用に向けた準備作業を実施。これには、ICD-11の日本語版の翻訳や、ICD-10からICD-11への変換表の作成が含まれます。
- ICD-11の発効
- 2022年1月:WHOがICD-11を正式に発効。これにより、ICD-11が国際的に有効となりました。
2.3 導入に向けた課題と進捗
ICD-11の導入には、多くの作業と時間が必要です。具体的な課題としては以下の点が挙げられます。
- 翻訳作業
ICD-11には多くの新しい病気や障害の分類が含まれており、これらを日本語に翻訳する作業が必要です。特に、医療用語の正確な翻訳が求められます。 - 変換表の作成
ICD-10からICD-11への移行をスムーズに行うために、両者の対応関係を示す変換表の作成が必要です。これにより、医療機関や行政機関が旧コードと新コードを正確に対応させることができます。 - 疾病分類表と死因分類表の見直し
ICD-11の導入に伴い、既存の疾病分類表や死因分類表も見直されます。これらの作業は、医療データの正確な記録と分析に不可欠です。
2.4 日本国内での導入進捗
現在、ICD-11の導入に向けた作業は進行中です。厚生労働省は、IC
生労働省はICD-11に関する情報を随時発表しており、日本国内での導入に向けての進捗状況を公開しています。以下に、具体的な進捗状況と今後の予定について説明します。
- ICD-11の公表と承認
- 2018年6月
WHOがICD-11を公表。ICD-11は、最新の医学的知見を反映し、新たな病気や障害の分類が追加されました。 - 2019年5月
WHOの総会でICD-11が承認され、正式に国際的な標準として採用されました。
- 2018年6月
- 国内適用の準備
- 2019年~2021年
厚生労働省や総務省が中心となり、ICD-11の国内適用に向けた準備作業を実施しました。この期間中に、ICD-11の日本語版翻訳が進められ、ICD-10からICD-11への変換表の作成が行われました。 - 翻訳作業では、ICD-11に含まれる多くの新しい病気や障害の分類が日本語に正確に翻訳されるように注意が払われました。
- 2019年~2021年
- ICD-11の発効
- 2022年1月
WHOがICD-11を正式に発効し、これによりICD-11は国際的に有効となりました。これに伴い、日本でも導入準備が加速しました。
- 2022年1月
- 疾病分類表と死因分類表の見直し
- ICD-11の導入に伴い、既存の疾病分類表や死因分類表の見直しが進められました。これらの作業は、医療データの正確な記録と分析に不可欠であり、各医療機関や行政機関において適切な対応が求められました。
- 関係機関との協力
- 厚生労働省は、ICD-11の導入に向けて関係機関との協力を強化しました。医療機関や学会、研究機関との連携を図り、ICD-11の導入に伴う影響や課題について意見交換を行いました。
- また、医療従事者や関係者向けの研修や説明会が開催され、ICD-11の内容や使用方法についての理解が深められました。
2.5 今後の予定
ICD-11の正式導入に向けて、以下の作業が引き続き進められる予定です。
- 周知活動
ICD-11の導入に向けて、一般市民や医療従事者への周知活動が行われます。ICD-11の重要性や利便性について広く情報発信が行われ、適切な理解と対応が促進されます。 - システムのアップデート
医療機関や行政機関で使用されるシステムのアップデートが必要です。ICD-11に対応した電子カルテシステムやデータベースの整備が進められ、円滑な移行が図られます。 - ガイドラインの作成
ICD-11の導入に伴い、使用ガイドラインが作成されます。これにより、医療現場でのICD-11の適用が統一され、診断や統計の精度が向上します。 - 継続的な評価と改善
ICD-11の導入後も、継続的な評価と改善が行われます。実際の運用において発生する課題や問題点に対して迅速に対応し、ICD-11の利便性と有効性が最大限に活かされるよう努められます。
2.6 導入のメリット
ICD-11の導入により、以下のようなメリットが期待されます。
- 診断の精度向上
最新の医学的知見を反映したICD-11により、より正確な診断が可能となります。これにより、適切な治療が行われ、患者のQOL(Quality of Life)が向上します。 - 国際的なデータ比較
ICD-11の導入により、国際的な疾病データの比較が容易になります。これにより、各国の健康問題や医療政策についての研究が進み、グローバルな公衆衛生の向上に寄与します。 - 医療情報の効率的な管理
電子環境での活用を前提としたICD-11により、医療情報の管理が効率化されます。電子カルテシステムとの統合により、データの入力や検索が迅速に行えるようになります。
ICD-11の導入は、日本の医療現場や行政機関にとって重要なステップです。適切な準備と対応により、ICD-11の利便性と有効性が最大限に活かされることが期待されます。
3. ICD-11の主な改訂点
ICD(国際疾病分類)コードは、世界保健機関(WHO)が作成した病気や健康状態を分類するための標準化されたコード体系です。これにより、異なる国や地域の医療機関や研究機関が一貫した方法で病気を記録し、分析することができます。ICDコードの役割と具体例について詳しく説明します。
3.1 ICDコードの基本構造
ICDコードは、アルファベットと数字の組み合わせによって構成され、病気や障害を特定のカテゴリに分類します。たとえば、以下のような構造を持っています。
- アルファベット
病気の大分類を示します。たとえば、Fは精神および行動の障害を示します。 - 数字
詳細な病名や症状を示します。たとえば、F84は広汎性発達障害を指します。
ICDコードの具体例
- F84:広汎性発達障害
- F90:多動性障害
- F95:チック障害
3.2 ICDコードの主な役割
ICDコードは、医療現場や行政機関、研究機関などで幅広く使用されており、以下のような重要な役割を果たします。
- 診断の標準化
ICDコードは、医師が患者の病気を診断する際に使用される標準化された指標です。これにより、異なる医療機関や国間での診断の一貫性が保たれます。 - 統計データの収集と分析
ICDコードは、病気や死亡の原因を統計的に分析するために使用されます。各国で収集されたデータは、ICDコードを基に統一された形式で記録され、国際的な比較や研究が可能となります。 - 医療政策の立案
ICDコードを用いた統計データは、医療政策の立案に役立ちます。たとえば、特定の病気の発生率や死亡率のデータを基に、公衆衛生対策や医療リソースの配分が行われます。 - 保険請求と医療費管理
ICDコードは、保険会社や医療機関が医療費を請求する際にも使用されます。診断や治療にかかる費用を正確に記録し、保険請求を円滑に行うための基礎となります。 - 研究と教育
ICDコードは、医学研究や教育においても重要な役割を果たします。病気の分類や診断基準を理解するための基礎として、医学部や研修医の教育に使用されます。
3.3 ICD-11におけるコードの進化
ICD-11では、ICDコードの体系がさらに詳細かつ包括的に改訂されました。これにより、より多くの病気や症状を正確に分類できるようになりました。
- 拡張性の向上
ICD-11では、病気や障害の詳細な記述が可能となる拡張コードが導入されました。これにより、個々の症例の違いをより細かく記録することができます。 - 電子環境への適応
ICD-11は、電子カルテシステムや他のデジタル医療情報システムと統合しやすいように設計されています。これにより、データの入力や検索が効率化され、医療現場での利用がさらに便利になります。 - 多言語対応
ICD-11は、多言語対応が強化されており、英語、アラビア語、スペイン語、フランス語、中国語などで利用可能です。これにより、国際的な医療情報の共有が容易になります。日本語版の対応も進められており、国内の医療機関での利用が期待されています。
3.4 ICDコードの実際の使用例
- 医療機関での使用
医師が患者を診断する際に、問診や検査結果と合わせてICDコードを使用します。たとえば、精神疾患の場合、診断書にICDコードを記載し、患者の病名を明確に示します。 - 行政機関での使用
厚生労働省の「人口動態調査」などでICDコードが使用されます。死亡原因や疾病の統計をICDコードを基に記録し、国内外の公衆衛生政策に役立てます。 - 保険請求での使用
病院や診療所が保険会社に医療費を請求する際に、ICDコードを使用します。これにより、保険会社は診療内容や費用を正確に把握し、適切な支払いを行います。
ICDコードは、医療現場や行政機関、研究機関で重要な役割を果たす標準化された病気の分類システムです。ICD-11では、最新の医学的知見を反映し、より詳細で包括的な分類が可能となりました。ICDコードを適切に使用することで、診断の精度向上、統計データの収集と分析、医療政策の立案など、多くの分野での活用が期待されます。これにより、国際的な医療情報の共有が促進され、公衆衛生の向上に寄与することが期待されます。
4. ICDコードとその役割
ICD(国際疾病分類)コードは、世界保健機関(WHO)が作成した病気や健康状態を分類するための標準化されたコード体系です。これにより、異なる国や地域の医療機関や研究機関が一貫した方法で病気を記録し、分析することができます。ICDコードの役割と具体例について詳しく説明します。
4.1 ICDコードの基本構造
ICDコードは、アルファベットと数字の組み合わせによって構成され、病気や障害を特定のカテゴリに分類します。たとえば、以下のような構造を持っています。
- アルファベット
病気の大分類を示します。たとえば、Fは精神および行動の障害を示します。 - 数字
詳細な病名や症状を示します。たとえば、F84は広汎性発達障害を指します。
ICDコードの具体例
- F84:広汎性発達障害
- F90:多動性障害
- F95:チック障害
4.2 ICDコードの主な役割
ICDコードは、医療現場や行政機関、研究機関などで幅広く使用されており、以下のような重要な役割を果たします。
- 診断の標準化
ICDコードは、医師が患者の病気を診断する際に使用される標準化された指標です。これにより、異なる医療機関や国間での診断の一貫性が保たれます。 - 統計データの収集と分析
ICDコードは、病気や死亡の原因を統計的に分析するために使用されます。各国で収集されたデータは、ICDコードを基に統一された形式で記録され、国際的な比較や研究が可能となります。 - 医療政策の立案
ICDコードを用いた統計データは、医療政策の立案に役立ちます。たとえば、特定の病気の発生率や死亡率のデータを基に、公衆衛生対策や医療リソースの配分が行われます。 - 保険請求と医療費管理
ICDコードは、保険会社や医療機関が医療費を請求する際にも使用されます。診断や治療にかかる費用を正確に記録し、保険請求を円滑に行うための基礎となります。 - 研究と教育
ICDコードは、医学研究や教育においても重要な役割を果たします。病気の分類や診断基準を理解するための基礎として、医学部や研修医の教育に使用されます。
4.3 ICD-11におけるコードの進化
ICD-11では、ICDコードの体系がさらに詳細かつ包括的に改訂されました。これにより、より多くの病気や症状を正確に分類できるようになりました。
- 拡張性の向上
ICD-11では、病気や障害の詳細な記述が可能となる拡張コードが導入されました。これにより、個々の症例の違いをより細かく記録することができます。 - 電子環境への適応
ICD-11は、電子カルテシステムや他のデジタル医療情報システムと統合しやすいように設計されています。これにより、データの入力や検索が効率化され、医療現場での利用がさらに便利になります。 - 多言語対応
ICD-11は、多言語対応が強化されており、英語、アラビア語、スペイン語、フランス語、中国語などで利用可能です。これにより、国際的な医療情報の共有が容易になります。日本語版の対応も進められており、国内の医療機関での利用が期待されています。
4.4 ICDコードの実際の使用例
- 医療機関での使用
医師が患者を診断する際に、問診や検査結果と合わせてICDコードを使用します。とくに精神疾患の場合、生物学的な検査だけでは確定診断が難しいため、ICDやDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の基準が参考にされることがあります。診断書にはICDコードが記載され、患者の病名が明確に示されます。 - 行政機関での使用
厚生労働省の「人口動態調査」などでICDコードが使用されます。人口動態調査では、合計特殊出生率や死因別死亡数、年齢別婚姻・離婚件数などの統計がとられています。その中で、死因となった病気の統計にICDコードが使用されます。ICDの分類に基づく統計結果は、WHOの基礎資料として利用され、国際的な研究などに役立てられています。 - 保険請求での使用
病院や診療所が保険会社に医療費を請求する際に、ICDコードを使用します。これにより、保険会社は診療内容や費用を正確に把握し、適切な支払いを行います。診断書は医師が記入するもので、ICDコードが正確に記載されていることが重要です。ICDコードの記入漏れや誤った表記があった場合、不支給になることがあります。受け取ったら記入漏れがないか確認するようにしましょう。
4.5 ICD-11の新機能
ICD-11は、ICD-10から大幅に改良され、現代の医療ニーズに対応するための新機能が多数追加されています。
- 伝統医学の導入
ICD-11には、伝統医学に基づく病態の分類が新たに導入されました。これにより、東洋医学や他の伝統医療も国際的に認識されるようになりました。 - 新しい疾患の追加
ICD-11では、多くの新しい疾患が追加されました。例えば、ゲーム障害が追加され、やめたいと思っていてもやめられない状態のゲーム依存症が正式に分類されました。 - 性同一性障害の再分類
性同一性障害は、ICD-10では「精神および行動の障害」に分類されていましたが、ICD-11では「性保健健康関連の病態」に再分類されました。これにより、性同一性障害は精神疾患としてではなく、性健康の問題として扱われるようになりました。
ICDコードは、医療現場や行政機関、研究機関で重要な役割を果たす標準化された病気の分類システムです。ICD-11では、最新の医学的知見を反映し、より詳細で包括的な分類が可能となりました。ICDコードを適切に使用することで、診断の精度向上、統計データの収集と分析、医療政策の立案など、多くの分野での活用が期待されます。これにより、国際的な医療情報の共有が促進され、公衆衛生の向上に寄与することが期待されます。
5. ICD-11とDSMの違い
ICD-11とDSMは、いずれも病気や障害を分類するための標準化されたシステムですが、その目的や作成主体、使用される範囲には違いがあります。それぞれの特徴と違いについて詳しく解説します。
5.1 ICD-11とは
ICD(国際疾病分類)は、世界保健機関(WHO)が作成した病気や健康状態を分類するための国際標準です。ICD-11は、最新の医学的知見を反映した第11版であり、2018年6月に公表されました。ICDはすべての疾病や健康問題を網羅し、医療機関や行政機関、研究機関で広く使用されています。
5.2 ICD-11の特徴
- 作成主体
WHO - 対象範囲
すべての疾病および関連健康問題 - 使用場所
世界中の医療機関、行政機関、研究機関 - 目的
国際的な疾病分類の統一、統計データの収集と分析、医療政策の立案
5.3 DSMとは
DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)は、アメリカ精神医学会(APA)が作成した精神疾患の分類システムです。現在の最新版はDSM-5であり、2013年に発表されました。DSMは主に精神疾患に特化しており、米国内を中心に使用されていますが、精神医学の分野で広く参照されています。
5.4 DSM-5の特徴
- 作成主体
アメリカ精神医学会(APA) - 対象範囲
精神疾患のみ - 使用場所
主にアメリカ国内、精神医学の分野 - 目的
精神疾患の診断基準の提供、治療方針の決定、研究の基礎資料
5.5 ICD-11とDSMの主な違い
- 作成主体
- ICD-11
WHOが作成し、国際的な医療基準として使用されます。 - DSM-5
アメリカ精神医学会(APA)が作成し、主にアメリカ国内の精神医学分野で使用されます。
- ICD-11
- 対象範囲
- ICD-11
すべての疾病や健康問題を対象とし、包括的な分類を提供します。 - DSM-5
精神疾患に特化し、精神医学的な診断と治療に焦点を当てています。
- ICD-11
- 使用場所
- ICD-11
世界中の医療機関や行政機関、研究機関で広く使用されます。 - DSM-5
主にアメリカ国内の精神医療現場や研究機関で使用されますが、他国でも精神医学の参考資料として利用されることがあります。
- ICD-11
- 目的
- ICD-11
国際的な疾病分類の統一を図り、各国の統計データの収集と分析を支援します。医療政策の立案や公衆衛生対策にも利用されます。 - DSM-5
精神疾患の診断基準を提供し、治療方針の決定を支援します。精神医学の研究や教育にも重要な役割を果たします。
- ICD-11
5.6 ICD-11とDSM-5の連携
ICD-11とDSM-5は、それぞれ独自に作成されていますが、近年では相互の連携が進んでいます。精神疾患の分類に関しては、DSM-5の基準がICD-11に反映されることが多く、両者の整合性が保たれるよう努められています。
- 精神疾患の分類
ICD-11では、精神疾患の分類においてDSM-5の基準を参照し、最新の精神医学の知見が反映されています。これにより、診断基準が国際的に統一され、医療現場での混乱が減少します。 - 相違点の調整
一部の精神疾患については、ICD-11とDSM-5で異なる基準が適用されることがあります。この場合、両者の違いを調整し、医療現場での一貫した診断が可能となるよう取り組まれています。
5.7 ICD-11とDSM-5の実際の使用例
- 医療機関での使用
医師は、患者の症状に応じてICD-11やDSM-5の基準を参考にしながら診断を行います。特に精神疾患の場合、DSM-5の診断基準が詳細に記載されているため、これを参考にして診断を確定します。 - 研究機関での使用
医学研究者は、ICD-11やDSM-5を使用して精神疾患の研究を行います。両者の基準を比較することで、精神疾患の理解が深まり、新たな治療法の開発に繋がります。 - 行政機関での使用
行政機関は、ICD-11を使用して疾病や死因の統計を作成します。これにより、公衆衛生政策の立案や医療リソースの配分が行われます。
ICD-11とDSM-5は、いずれも病気や障害を分類するための重要なシステムですが、その目的や使用範囲には違いがあります。ICD-11は、すべての疾病を網羅し、国際的な標準として使用される一方、DSM-5は精神疾患に特化し、主にアメリカ国内の精神医学分野で使用されます。両者の連携が進むことで、精神疾患の診断基準が国際的に統一され、医療現場での一貫した診断と治療が可能となります。これにより、患者のQOL(生活の質)が向上し、精神医学の研究や教育がさらに進展することが期待されます。
6. ICD-11の活用方法
ICD-11は、医療機関や行政機関で広く使用され、病気の診断、統計データの収集、医療政策の立案など多岐にわたる役割を果たしています。以下に、ICD-11がどのように活用されているか、具体的な使用例を挙げて詳しく説明します。
6.1 医療機関での使用
ICD-11は、医療機関での診断や治療計画の策定において重要な役割を果たします。医師は、患者の症状に基づいて適切なICD-11コードを選び、診断を行います。これにより、診断の一貫性が保たれ、治療の質が向上します。
診断と治療計画
- 医師が患者を診断する際に、ICD-11を用いて病気や症状を特定します。例えば、精神疾患の診断では、ICD-11のコードを使用して具体的な病名を特定し、治療計画を立てます。
- 精神疾患の場合、例えば、うつ病や不安障害、統合失調症などの診断にICD-11の基準が使用されます。これにより、診断が標準化され、異なる医療機関間での診断の一貫性が保たれます。
治療とフォローアップ
- ICD-11のコードを使用して、患者の病歴や治療経過を記録します。これにより、治療の進捗を追跡し、必要に応じて治療計画を見直すことができます。
- 長期的なフォローアップが必要な慢性疾患の管理にもICD-11が役立ちます。例えば、糖尿病や高血圧などの管理において、ICD-11のコードを使用して患者の状態を継続的に監視します。
統計と研究
- 医療機関は、ICD-11を用いて収集したデータを基に、病気の発生率や治療成績を統計的に分析します。これにより、医療の質向上や新しい治療法の開発に役立ちます。
- 研究機関は、ICD-11を使用して疾患の研究を行い、疫学的なデータを収集します。これにより、病気の原因やリスク要因の特定が可能となり、予防策の策定に役立ちます。
教育とトレーニング
- 医療従事者の教育やトレーニングにおいてもICD-11が使用されます。ICD-11の基準を学ぶことで、医療従事者は最新の診断基準に基づいた適切な診断と治療が行えるようになります。
6.2 行政機関での使用
行政機関では、ICD-11を使用して公衆衛生の管理や政策立案を行います。ICD-11のデータは、国全体の健康状態を把握し、適切な医療サービスの提供を支えるために不可欠です。
人口動態調査
- 厚生労働省は、ICD-11を使用して人口動態調査を実施します。この調査では、出生率や死亡率、病気の発生率などを統計的に分析し、国の健康状態を把握します。
- 死因統計においてもICD-11が使用されます。例えば、がんや心疾患、脳血管疾患など主要な死因の統計をICD-11のコードに基づいて集計し、公衆衛生対策を立案します。
保険制度の管理
- 保険請求の際にもICD-11が使用されます。医療機関は診断書にICD-11のコードを記載し、保険会社に提出します。これにより、保険会社は診療内容や費用を正確に把握し、適切な支払いを行います。
- ICD-11のコードを使用することで、保険制度の管理が効率化され、不正請求の防止にも役立ちます。
公衆衛生政策の立案
- 行政機関は、ICD-11のデータを基に公衆衛生政策を策定します。例えば、感染症の流行状況を監視し、迅速な対応を行うためにICD-11の統計データが活用されます。
- 健康増進プログラムの策定にもICD-11が役立ちます。たとえば、生活習慣病の予防や高齢者の健康管理など、特定の健康問題に対する対策を講じるためのデータとして使用されます。
国際的な協力
- ICD-11は国際標準であるため、各国のデータを統一された形式で比較することができます。これにより、国際的な公衆衛生問題への対応や研究が進みます。
- WHOを通じて、ICD-11のデータはグローバルな健康課題の解決に向けた政策立案に使用されます。たとえば、パンデミックの予防や対応策の策定に役立ちます。
教育と啓発
- 行政機関は、ICD-11を使用したデータを基に市民への健康教育や啓発活動を行います。たとえば、特定の疾病に関する予防情報を提供し、健康意識の向上を図ります。
ICD-11は、医療機関や行政機関で広く活用され、病気の診断や治療、統計データの収集と分析、医療政策の立案などにおいて重要な役割を果たしています。ICD-11を適切に使用することで、医療の質向上、公衆衛生の改善、国際的な健康問題への対応が可能となります。これにより、全体的な健康状態の向上と医療サービスの効率化が期待されます。
7. ICD-11の日本語版と翻訳の現状
ICD-11(国際疾病分類第11版)は、WHOによって2018年に公表され、2019年に正式に承認されました。この最新版のICDは、最新の医学的知見を反映し、ICD-10から大幅に改訂されています。しかし、日本国内での導入には、翻訳作業を含むさまざまな準備が必要です。ここでは、ICD-11の日本語版と翻訳の現状について詳しく説明します。
7.1 ICD-11の日本語版
ICD-11は、国際的に使用される標準的な病気の分類システムであり、多くの国で使用されています。ICD-11は、英語をはじめとする複数の言語で提供されていますが、日本語版については現在も翻訳作業が進行中です。日本語版が完成するまでには、多くの専門的な作業が必要とされています。
7.2 翻訳の必要性
- ICD-11には、新たに追加された病気や障害の分類、既存の病気の改訂点などが多く含まれています。これらを正確に日本語に翻訳することは、日本の医療現場での適切な使用に不可欠です。
- 医療従事者がICD-11を理解し、正確に使用できるようにするためには、日本語版の提供が必須です。翻訳作業は、医学用語の専門知識を持つ翻訳者によって行われています。
7.3 翻訳作業の進捗
日本におけるICD-11の翻訳作業は、厚生労働省をはじめとする関係機関が主導して行っています。具体的な翻訳作業の進捗については以下の通りです。
翻訳プロセス
- 初期段階
- ICD-11が2018年に公表された後、日本では厚生労働省や総務省などが翻訳作業を開始しました。この段階では、ICD-11の全体的な構造や新規項目の把握が行われました。
- 2019年から2021年にかけて、翻訳作業の計画が立てられ、具体的な翻訳作業が進められました。
- 専門用語の翻訳
- ICD-11には、非常に専門的な医学用語が多く含まれています。これらの用語を正確に翻訳するために、多くの医学専門家が協力しています。
- 例えば、新たに追加された「ゲーム障害」や「性別不合」などの用語も、日本の文化や医療現場に適した翻訳が求められます。
- レビューと校正
- 翻訳された内容は、複数の専門家によるレビューと校正を経て、最終的な日本語版が完成します。この過程では、翻訳の正確性と一貫性が確認されます。
- 日本語版のICD-11が完成する前に、何度も見直しと修正が行われ、最終的な品質が保証されます。
7.4 日本国内での導入への準備
ICD-11の日本語版が完成し、正式に導入されるまでには、いくつかのステップが必要です。これには、医療機関や行政機関での適用準備も含まれます。
導入準備のステップ
- 教育とトレーニング
- ICD-11の導入に伴い、医療従事者や関係者に対する教育やトレーニングが必要です。ICD-11の新しい分類やコード体系についての理解を深めるために、研修やセミナーが開催されます。
- 特に、ICD-10からICD-11への移行に際して、新しいコードの使い方や適用方法についての指導が行われます。
- システムのアップデート
- 医療機関の電子カルテシステムやデータベースも、ICD-11に対応するようにアップデートが必要です。これにより、ICD-11のコードを使用して患者の診断や治療記録を管理できます。
- 行政機関の統計システムも、ICD-11に対応するように改修され、正確なデータ収集と分析が行えるようになります。
- 公衆衛生政策の調整
- ICD-11の導入に伴い、公衆衛生政策も見直される必要があります。これには、病気の発生率や死亡率の統計方法の調整が含まれます。
- 新しい分類に基づいた健康対策や予防プログラムの策定も行われます。
7.5 現在の状況と今後の展望
現在、ICD-11の日本語版の翻訳作業は進行中であり、厚生労働省からの情報発表を待つ必要があります。翻訳作業が完了次第、日本国内での正式な導入が進められる予定です。
今後の展望
- ICD-11の日本語版が完成し、医療機関や行政機関での導入が進むことで、診断の精度や医療サービスの質が向上することが期待されます。
- 国際的な疾病分類に基づくデータの共有が促進され、日本の公衆衛生対策が強化されます。
ICD-11の導入は、日本の医療システムにとって重要なステップとなります。適切な準備と対応を行うことで、医療現場や行政機関でのICD-11の有効活用が可能となり、全体的な健康状態の改善が期待されます。
まとめ
ICD-11(国際疾病分類第11版)は、WHOが作成した最新の疾病分類システムであり、2018年に公表され、2019年に正式に承認されました。ICD-11は、ICD-10からの大幅な改訂を含み、最新の医学的知見を反映しています。日本では、厚生労働省を中心に翻訳作業が進められており、医療機関や行政機関での導入に向けた準備が進行中です。ICD-11は、医療機関では診断や治療計画、統計データの収集と分析に使用され、行政機関では公衆衛生政策の立案や保険制度の管理に役立ちます。日本語版の翻訳は進行中であり、完成後には医療従事者への教育やシステムのアップデートが必要となります。ICD-11の導入により、日本の医療サービスの質が向上し、国際的な健康問題への対応も強化されることが期待されます。